コラム

給与規定とは賃金に関する取り決めを定めるもの。作成の注意点を解説

給与規定は就業規則で必ず記載しなければならない項目であり、労働基準法のルールに沿って定めなければなりません。就業規則の別規定として作成される場合もあります。

本記事では給与規定の内容について解説し、記載すべき事項、注意点などを紹介します。

給与規定とは?

給与規定とは、労働基準法が規定する就業規則のなかで、従業員の賃金に関して定めたものです。

賃金は、就業規則で必ず記載しなければならない絶対的必要記載事項とされています。給与規定として就業規則と別に作成する場合は、就業規則とともに労働基準監督署への提出が必要です。

ここでは給与規定の内容を説明し、定め方や作成後の周知について紹介します。

従業員の賃金に関する取り決めを定めたもの

給与規定は従業員の賃金のルールを定めたものです。賃金の内容を明確にし、従業員の公平を図る目的があります。

給与は賃金として就業規則に記載するべき項目であり、従業員を常時10人以上雇用している会社は就業規則の作成と届出が義務付けられています。

ただし、給与については大枠のルールだけを記載し、細かい内容は供与規定として別に作成されることも少なくありません。

就業規則の絶対的必要記載事項

就業規則には、必ず記載しなければならない絶対的必要記載事項があり、賃金もそのひとつです。絶対的必要記載事項には賃金のほかに労働時間や退職に関する事項があり、これらの記載がひとつでもかけた場合、30万円以下の罰金が科されます。

賃金は給与規定として別に作成することができますが、あくまで就業規則の一部です。就業規則とともに作成し、届出も就業規則と一緒に行わなければなりません。

雇用形態ごとに定めてもよい

給与規定は正社員とは別に、アルバイトやパート用など、雇用形態ごとに分けて作成してもかまいません。

労働時間や賃金体系が異なる従業員を雇用している場合、給与について同じ書面でまとめてしまっては、正社員と同じ待遇と誤解される可能性があります。規程を分けて作成すれば、そのようなトラブルを避けることができるでしょう。

給与規定は従業員への開示が必要

就業規則は、作成したら従業員に周知させる義務があります。就業規則の一部である給与規定も同様です。

周知したといえるためには、会社の見やすい場所へ常時掲示するか備え付けること、あるいは書面を労働者に交付するか、パソコンなどの機器で従業員が常時閲覧できる状態にしておきましょう。

周知義務を果たしていない場合は、労働基準監督から指導や是正勧告を受ける可能性があるほか、30万円以下の罰金を科される場合もあります。

給与規定に記載すべき項目

就業規則と同じく、給与規定にも必ず記載すべき絶対的必要記載事項と、会社で決めたルールについて記載すべき相対的必要記載事項があります。賃金の決定方法や計算方法などは、絶対的必要記載事項として必ず記載しなければなりません。

また、一部の項目は任意的記載事項として会社が任意で定めることも可能です。

給与規定に記載すべき項目について、紹介します。

絶対的必要記載事項

給与規定の絶対的必要記載事項は、以下の項目です。

  • 賃金の決定方法
  • 賃金の計算と支払いの方法
  • 賃金の締め切りや支払いの時期、昇給に関する事項

賃金の計算方法では月給制や日給制、時給制など、実施しているものをすべて記載します。また、欠勤・残業手当などの計算方法や有給休暇、育児・介護休暇を取得した場合の賃金なども明確に記載しなければなりません。

なお、パート従業員がいる場合は、パート労働法により以下の事項も記載が必要です。

  • 昇給の有無
  • 退職金の有無
  • 賞与の有無
  • 短時間労働者の雇用管理の改善等に関する相談窓口

相対的必要記載事項

相対的必要記載事項として、制度を設けた場合に記載しなければならないのは以下のような項目です。

  • 退職金の定めが適用される労働者の範囲
  • 退職手当の決定や計算、支払いの方法
  • 最低賃金に関する事項
  • 臨時の賃金(賞与)

退職金や退職年金などの制度を設けている場合は、その内容を記載します。最低賃金は最低賃金法に基づき、国が定めた賃金の最低限度を下回る設定はできません。

任意的記載事項としては、用語の定義や会社理念などがあげられます。

労働基準法等に定められている賃金のルール

給与規定を作成する際は、労働基準法が定めている賃金のルールに反することはできません。賃金支払い5原則と呼ばれるもので、以下の5つです。

  • 通貨払い
  • 直接払い
  • 全額払い
  • 毎月1回以上払い
  • 一定期日払い

ほかにも、最低賃金や休業手当、出来高払い制などの保障給といった規定が定められています。

ここでは労働基準法等に定められている賃金のルールについて、確認しておきましょう。

賃金の基本原則

労働基準法第24条には、賃金につき「①通貨で②直接労働者に③その金額を④毎月1回以上⑤一定の期日を定めて支払わなければならない」という内容が規定されています。

①の通貨払いについては、本人の同意があれば口座振込みでも問題ありません。④の毎月1回以上の例外として認められるのは臨時的な賃金のみで、年俸制を採用する場合でも1年間の年俸を1度に支払うことは許されておらず、分割して毎月支払うことが必要です。

最低賃金

労働基準法28条では賃金の最低基準に関し、最低賃金法の定めるところによると定めています。最低賃金法が適用されるのは基本給と「精・皆勤手当」「通勤手当」「家族手当」以外の諸手当です。

最低賃金法が規定する最低限度額はほぼ毎年改訂されているため、最低賃金のギリギリに設定している場合は毎年確認しなければなりません。

休業手当

労働基準法26条では、使用者の責に帰すべき事由によって休業する場合、平均賃金の100分の60以上の手当が必要としています。

使用者の責に帰すべき事由にあたるのは、経営悪化による業務量の減少やストライキなどがあげられます。

地震や台風などの自然災害で休業する場合は使用者の責に帰すべき事由ではないため、休業手当を支給しなくても違法ではありません。

出来高払制の保障給

労働基準法27条では、出来高払い制その他の請負制の労働者に対し、労働した時間に応じて一定額の賃金保障を義務付けています。労働者の最低水準の生活を保障するためです。

これにより、仮に労働の成果がなかった場合でも、一定額の賃金を支払わなければなりません。保障する額について明確な定めはありませんが、休業手当を参考に、平均賃金の6割以上とするケースが多く見られます。

賃金から天引きするもの

賃金支払い5原則には全額払いの原則がありますが、その例外となるのが賃金からの天引きです。

賃金からは法令の定めと労使協定の定めにより、天引きできるものがあります。給与規定を作成する際は、その内容もよく理解しておかなければなりません。

それぞれ、天引きするものは以下のとおりです。
(法令の定めにより天引きするもの)

  • 健康保険料
  • 厚生年金保険料
  • 雇用保険料
  • 所得税
  • 住民税

(書面による労使協定の締結により天引きするもの)

  • 社宅・寮の使用料
  • 労働組合費
  • 給食費
  • 親睦会費
  • 旅行積立金

労使協定による天引きは、労働者の福利厚生に役立つということで例外的に認められているものです。そのため福利厚生と関連のない天引きは、労使協定があっても認められません。

労働者名簿と賃金台帳の作成

法令では、従業員を雇用した際の労働者名簿と、賃金を支払った際の賃金台帳作成を義務付けています。給与規定を作成する際は、これら名簿等の作成も忘れないようにしましょう。

なお、労働者名簿と賃金台帳は3年間の保存が必要です。

(労働者名簿)
労働者名簿は労働基準法第107条で定められており、従業員の氏名や生年月日などの情報を記載する書類です。
労働者名簿は事業所ごとに作成・保管が義務付けられています。入社時に1人1枚作成し、情報が変更された場合はその都度変更していきます。

(賃金台帳)
賃金台帳とは従業員への給与の支払い状況を記載した書類であり、労働基準法第108条で事業所単位での作成が義務付けられています。会社が従業員に配布する給与明細とは異なるものです。

給与規定を変更する場合の手続き

近年、育児介護休業法など、労働条件に関連する法律の改正が頻繁に行われています。法律の改正により、給与や手当についての規定を変更しなければならない会社も多いでしょう。

給与規定を変更する場合は従業員の過半数代表による意見書を添付し、労働基準監督署に提出しなければなりません。

給与規定の変更手続きは基本的に作成・届出の場合と同じであり、以下のような手順で行います。

  • 変更案を作成して経営陣の承認を得る
  • 従業員の過半数代表者の意見を聞く
  • 意見書を添付して変更した給与規定を提出する
  • 従業員に周知する

給与規定を変更する際は、次の点に注意しましょう。

  • 従業員に不利益な変更の場合は、合理性があるか
  • 法律の改正に対応しているか
  • 自社の状況に合う内容になっているか

賃金の額を下げるなど従業員に不利益になる変更も可能ですが、その内容は不利益の程度や変更の必要性などを総合的にみて、合理的な変更といえるものでなければなりません。

労働基準法や労働契約法をはじめ労働条件に関わる法律は数多く、毎年のように改正が行われています。変更の内容が、これら改正に対応しているかもよく確認しておきましょう。

まとめ

給与規定で定める賃金は、就業規則に必ず記載しなければならない絶対的必要記載事項です。就業規則とは別に、詳細を記載した規定を別に作成するようにしましょう。

給与規定の内容は、賃金支払い5原則など労働基準法等に定める内容に沿ったものでなければなりません。

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