月60時間超残業の割増賃金率引き上げとは?
時間外労働に対する割増賃金の支払は、通常の勤務時間とは異なる特別の労働に対する労働者への補償を行うとともに、使用者に対し経済的負担を課すことによって時間外労働を抑制することを目的とされているものです。一方、少子高齢化が進行し労働力人口が減少する中で、子育て世代の男性を中心に、長時間にわたり労働する労働者の割合が高い水準で推移しており、労働者が健康を保持しながら労働以外の生活のための時間を確保して働くことができるよう労働環境を整備することが重要な課題と言われ、働き方改革推進の取り組みのひとつとして労働基準法に関する法改正が近年進められてきていることは社会一般に浸透しつつあるところです。
そのひとつ、時間外労働に関する法改正で2020年4月1日から月60時間を超えた時間外労働に対しては50%以上の割増賃金を支払うよう改正がなされました。中小企業に対しては2023年3月までは適用が猶予されていますが、2023年4月1日より、猶予措置は廃止され、企業規模を問わず中小企業についても月60時間を超える時間外労働に対する割増賃金率が25%以上から50%以上に引き上げられます。
時間外労働の割増賃金率とは?
時間外労働とは
労働基準法32条で定められている『1日8時間、1週間40時間』の法定労働時間を超えて労働した時間が時間外労働時間となります。
この法定労働時間は原則であり、変形労働時間制や裁量労働制など、さまざまな例外があります。たとえば変形労働時間制の場合、一定の期間内の平均労働時間が法定労働時間内に収まっていれば、特定の日に法定労働時間を超えても法定時間外労働とはなりませんが、ここでの解説は 『1日8時間、1週間40時間』の原則においてとなります。
割増賃金の種類と割増率
月60時間を超える時間外労働に対する割増率が中小企業も50%以上へと引き上げられますが、そのほかの休日労働や深夜労働に対する割増率ついても改めてここで確認します。給与計算をする際には従業員の勤怠を確認し、下記のどの時間に該当するかを把握する必要があります。
労働の種類 | 労働時間 | 割増率 |
---|---|---|
時間外労働 | 法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超えるとき | 25%以上 |
時間外労働が限度時間(1ヶ月45時間、1年360時間)を超えたとき | 25%以上(※1) | |
時間外労働が月60時間を超えたとき | 50%以上(※2) | |
休日労働 | 法定休日に勤務させたとき | 35%以上 |
深夜労働 | 22時から翌5時までの間に勤務させたとき | 25%以上 |
- (※1) 25%を超える率とするよう努める必要がある(労働基準法第三十六条第一項の協定で定める労働時間の延長及び休日の労働について留意すべき事項等に関する指針第5条第3項より)
- (※2)中小企業への適用は2023年4月から
改正に向けて注意ポイントは?
1か月の起算日
月60時間を超える時間外労働の割増賃金率及び1か月の起算日については、労働基準法第89条第1項第2号に定める「賃金の決定、計算及び支払の方法」に関するものなので、就業規則に規定する必要があります。起算日は事業場ごとの定めとなりますが、賃金計算期間の初日、毎月1日、36協定の期間の初日などに定められるケースが多くあります。
深夜労働との関係
深夜時間帯、夜22時から翌日早朝の5時までの時間帯に月60時間を超える時間外労働を行わせた場合の割増賃金率は 深夜労働割増賃金率25%+時間外労働割増賃金率50%=75%となります。
時間外労働、休日労働の算定
月60時間を超える時間外労働の算定には、4週間に4回または1週間に1回の付与が義務づけられた法定休日に行う労働時間は含まれませんが、それ以外の休日に行った労働時間は含まれます。例えば、法定休日としている日曜日に行った労働時間は時間外労働時間の対象ではなく、土曜日に行った労働は時間外労働時間にカウントされます。
法定休日とそれ以外の休日の割増率の計算には注意しましょう。労働条件を明示する観点や割増賃金の計算を簡便にする観点から、法定休日とそれ以外の休日を明確に分けておくことが望ましいです。
改正後の割増賃金計算
1か月の起算日からの時間外労働時間数を累計し60時間を超えた時点から、50%以上の率で計算した割増賃金を支払います。
- ①: 1日単位での時間外労働時間数
- ②: 1週間単位での40時間超労働時間数(①の時間外労働時間数、法定休日の労働は含めない)
- ③: 時間外労働時間総合計(①+②)
- ④: 時間外労働時間に対する賃金
- ⑤: 60時間超の時間外労働時間に対する賃金
- ④ = ③×時間単価×25%
- ⑤ =(③-60時間)× 時間単価 × 25%(※)
※ 既に④で25%の時間外割増分を支払った上での60時間を超える部分の割増率
代替休暇制度
月60時間を超える時間外労働を行った場合、引き上げ分の割増賃金の支払の代わりに有給の休暇を付与する制度(代替休暇制度)を設け、代替休暇を付与することができます。25%の割り増し分までは必ず金銭で支払う必要がありますが、それを超えた分は労使協定に基づいて、休暇に振り替えることができます。労働者の休息、健康を確保するためにも代替休暇制度の導入を検討しましょう。
なお、代替休暇制度の導入にあたっては、過半数組合、組合がない場合は過半数代表者との間で労使協定を結ぶことが必要です。また、代替休暇制度の労使協定は事業場において代替休暇の制度を設けることを可能にするものであり、個々の労働者に対して代替休暇の取得を義務づけるものではありません。個々の労働者が実際に代替休暇を取得するか否かは労働者の意思により決定されることに注意が必要です。
労使協定で定める事項
- ① 代替休暇の時間数の具体的な算定方法
- ② 代替休暇の単位
- ③ 代替休暇を与えられることができる期間
- ④ 代替休暇の取得日の決定方法、割増賃金の支払日
改正に向けてとるべき対策は?
就業規則の変更
割増賃金率の引き上げに合わせて就業規則の変更が必要となる場合があります。
現在の就業規則や賃金規程にて、時間外労働の割増率を25%としか明記していない場合、月60時間を超えた場合の割増率を新たに明記する必要があります。2023年4月へ向けて、就業規則を見直しましょう。
時間外労働対策、アウトソーシングの活用
月60時間を超える時間外労働に対する割増賃金率の引き上げは、自社の労働時間の課題を見直すチャンスです。従業員の健康や、働きやすい労働環境の実現のためにも時間外労働を減らす取り組みを進めてみてはいかがでしょうか。
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(参考・出典)
・東京労働局 │ しっかりマスター労働基準法 割増賃金編
・厚生労働省 │ 改正労働基準法
・厚生労働省 │ 月60時間を超える時間外労働割増賃金率が引き上げられます