社会保険は5種類あり、厚生年金保険や健康保険は標準報酬月額に所定の保険料率で計算します。毎月の保険料を計算し、本人負担分の保険料を徴収する作業が必要です。
本記事では社会保険の計算方法について説明するとともに、シミュレーションでわかりやすく紹介します。
社会保険の計算は難しい?
社会保険の適用事業所に勤めている従業員は、定められている要件に該当した場合には社会保険に加入する必要があります。
社会保険は健康保険や厚生年金保険など5種類で、毎月の給与から保険料が差し引かれます。会社では従業員ごとに保険料を計算しなければなりません。
ここでは社会保険とは何かを説明し、その種類や計算方法について紹介します。
そもそも社会保険とは
社会保険は社会保障のひとつで、保険料を支払ってさまざまなリスクに備える公的制度です。広義には国民健康保険などすべての国民を対象としますが、一般的に社会保険といわれるものは主に会社員を対象にしています。
一定の要件にあてはまる会社が社会保険の適用事業所になり、そこに勤めている従業員は適用要件に該当する限り、必ず加入しなければなりません。
適用事業所になる要件とは何か、どのような従業員に加入義務があるのか見てみましょう。
社会保険に加入義務がある会社
社会保険に加入義務のある会社は強制適用事業所とされ、以下の要件にあてはまる会社が対象です。
- 株式会社など法人の事業所
- 従業員が常時5人以上いる個人の事業所
法人の事業所は事業主のみの場合も含まれ、個人の事業所は農林水産業や自由業、一部のサービス業など適用対象にならない業種もあります。
強制適用事業所に該当しない場合でも、従業員の半数以上が適用事業所となることに同意し、事業主が申請して認可を受けた場合は任意適用事業所として社会保険加入が可能です。
社会保険に加入義務のある従業員
適用事務所であっても、労災保険以外の社会保険は従業員の全員が社会保険に加入するわけではありません。社会保険に加入義務のあるのは、以下の従業員です。
- フルタイム勤務の正規雇用社員
- 週あたりの所定労働時間と1ヵ月の労働日数が正規雇用社員の4分の3以上の短期労働者
- 所定労働時間が週20時間超え
- 月給が88,000円(年収106万円)以上
- 雇用期間が1年以上見込まれる
- 学生は除外
- 厚生年金保険の被保険者数が常時501人以上の事業所で働いている
また、被保険者の総数が常時500人以下でも、労使間の合意があれば加入が可能です。
なお、令和4年10月からは法律が改正され、短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用範囲が常時500人から常時100人以上の会社に拡大されるなど、事業所の要件が緩和されます。労災保険は短期労働者を含めすべての従業員が対象になり、雇用保険は異なる要件適用されます。
社会保険は5種類
社会保険は狭義の社会保険である健康保険、厚生年金保険、介護保険と、労働保険である労災保険、雇用保険の計5種類です。このうち、厚生年金保険は70歳未満、介護保険は40歳以上が対象となります。
これら5種類のうち、労災保険を除く4種類の保険料は会社と従業員が折半(雇用保険は按分)し、従業員の負担分は毎月の給与から源泉徴収されます。労災保険の保険料は、会社の全額負担です。
それぞれ保険料率が異なる
社会保険の計算ではそれぞれ、保険ごとに保険料率が異なります。健康保険、厚生年金保険、介護保険については「保険料額表」という一覧表があり、全国健康保険協会や日本年金機構のサイトで確認できます。
健康保険の保険料率は各都道府県で異なるため、都道府県ごとの保険料額表を確認しなければなりません。
健康保険組合に加入している場合は保険料率が異なり、所属している健康保険組合に確認が必要です。
厚生年金保険の保険料率は全国一律で、平成29年9月以降は18.3%に固定されています。
介護保険の料率は毎年3月に改定されるため、必ず新しい保険料率で計算することが必要です。
社会保険を計算する基準
社会保険の計算で基準となるのは、標準報酬月額です。標準報酬月額とは毎月の給料などを区切りのよい幅で区分したものです。標準報酬月額は、入社時や報酬額が変わったときなど決定のタイミングがあります。
ここでは、社会保険を計算する基準となる標準報酬月額の意味や算出方法、決定のタイミングについて紹介しましょう。
標準報酬月額がベース
標準報酬月額は、社会保険料の計算をするために設けられた金額です。4月から6月の3ヵ月で支給された給与の平均に基づき、決定します。対象となる報酬の範囲は、基本給のほかに通勤手当をはじめ家族手当、住宅手当、残業手当など各種手当を含み、労働の対償として現金または現物で支給されるものです。
標準報酬月額は、厚生年金保険で32等級、健康保険では50等級に区分され、それぞれの範囲は保険料額表に記載されています。
標準報酬月額が決まるタイミング
標準報酬月額が決まるタイミングは、以下のとおりです。
- 入社時
- 定時決定
- 随時決定
- 育児休業等終了時
まず、入社したときに標準報酬月額を決定します。まだ初めての給与が支給されていない段階ですが、1ヵ月の報酬見込額を計算し、等級区分にあてはめて決定します。
また、標準報酬月額は毎年改定が必要です。これを定時決定といい、毎年4月から6月の3ヵ月間の平均給与により、その年の9月1日以降1年間の標準報酬月額を決定します。
基本的に改定は年に一度で、翌年の9月までは同じ標準報酬月額で社会保険料が計算されることになるのです。
定時決定では、6月に標準報酬月額を改定したのち、7月10日までに「被保険者報酬月額算定基礎届」を提出しなければなりません。
報酬が大幅に変わって一定期間継続したときは、随時改定を行います。固定給や通勤手当が継続した3ヵ月間に、現在の標準報酬月額と2等級以上の差がある場合です。
また、育児休業が終わって職場復帰した際、報酬が減るなど現在の標準報酬月額と1等級以上の差が生じた場合には改定を行います。
なお、賞与も社会保険の対象です。基準となる金額を標準賞与額といい、賞与額の1,000円未満の端数を切り捨てた額になります。厚生年金保険料は支給1回につき150万円を上限とし、健康保険は年間の累計で573万円が上限です。
社会保険の計算方法とシミュレーション
5種類の社会保険をどのように計算するのかを確認するには、シミュレーションが最適です。従業員の給与から源泉徴収する社会保険は4種類で、労災保険は会社が負担します。
保険料を徴収する際の計算は、基本的に以下の計算式です。
標準報酬月額×保険料率÷2
2で割るのは、これらの保険が会社との折半になるためです。
各保険のシミュレーションについて見ていきましょう。
厚生年金保険
シミュレーションは、報酬月額の合計が27万円の方を例にして行います。
まず、厚生年金保険の保険料額表で、報酬月額の合計が27万円の標準報酬月額を確認すると、報酬月額27万円は18等級で、標準報酬月額は28万円です。
厚生年金の保険料率は18.3%に固定されているため、計算式は以下のようになります。
28万円×18.3%÷2=25,620円
なお、保険料額表には計算した金額について、全額分と折半分が掲載されています。
健康保険
条件は報酬月額の合計が27万円で、東京都に勤めている30歳の場合を想定します。
東京都の保険料額表では21等級で、標準報酬月額は28万円です。介護保険に該当しないため、保険料率は9.84%となります。
計算は、以下のとおりです。
28万円×9.84%÷2=13,776円
ちなみに、従業員が40歳以上の場合は表の「介護保険第2号被保険者に該当する場合」にあたり、保険料率は11.64%となります。
介護保険
介護保険は40歳以上から加入する保険で、健康保険に上乗せして計算します。介護保険料率は毎年3月に改定され、令和3年3月分の介護保険料率は1.8%です。
東京都に勤務して報酬月額の合計27万円、40歳以上の場合、介護保険だけの計算式は次のようになります。
28万円×1.8%÷2=13,776円
ただし、介護保険は健康保険と一緒に納付するもので、保険料額表でも「介護保険第2号被保険者に該当する場合」として介護保険料の料率を合わせた数字が掲載されています。そのため、以下の計算式で合計額を算出できます。
28万円×11.64%(健康保険+介護保険)÷2=16,296円
雇用保険
雇用保険は標準報酬月額ではなく、総支給額を基準に計算します。雇用保険の保険料額は毎年更新され、令和4年の9月30日までは一般の事業で9.5/1,000が適用されます。
雇用保険料は事業主と従業員で按分することになっており、9.5/1,000のうち、事業主は6.5/1000、従業員は3/1,000を負担します。
月額の総支給額が35万円の場合、雇用保険の計算式は以下のとおりです。
35万円×0.003%=1,050円
したがって、従業員の給与から雇用保険として1,050円徴収します。
労災保険
労災保険は前年度1年間の賃金総額に、事業ごとに定められた保険料率で計算します。従業員からは徴収せず、年1回、4月から翌年3月までの分を雇用保険料と合わせて支払うという仕組みです。
たとえば、令和4年における食品製造業の保険料率は令和3年度から変更なく、6/1,000です。
令和3年における従業員全員の賃金総支給額が2,000万円の場合、以下のように計算します。
2,000万円×0.6%=12万円
したがって、令和4年の労災保険は12万円です。
社会保険の計算で注意すべきこと
社会保険を計算するときは、随時改定に注意が必要です。報酬に2等級以上の差が出て3ヵ月以上経過した場合は届出をしなければなりません。
また、健康保険や介護保険、雇用保険は保険料率が改定される場合があるため、新しい情報には常に注意を払う必要があります。気づかずに計算していると、徴収に過不足が出てしまいます。
これらの注意点について、詳しく見ていきましょう。
標準報酬月額の等級が変わる場合に注意
標準報酬月額は2等級以上の差が出た場合には届出が必要です。昇給・降給があったときや手当がついた場合などで2等級以上の差が生じ、3ヵ月を経過した場合は年金事務所への「月額変更届」を忘れないようにしましょう。
また、従業員が40歳を超えたときは、介護保険に加入します。計算する保険料率が変わるため、忘れないようにしてください。
保険料率は改定される場合がある
厚生年金保険の料率は今後変わりませんが、健康保険や介護保険、労働保険は不定期に改定される場合があります。
また、令和2年には65歳以上でも雇用保険の納付が必要になるなど、ルールの改正が行われることも珍しくありません。
気づかずに計算して給与支払いに過不足が生じないよう、改定や法律改正のアナウンスはこまめにチェックするようにしましょう。
まとめ
社会保険の適用事業所では、毎月保険料を計算して給与から徴収しなければなりません。保険料の料率は保険ごとに異なり、改定にも注意が必要です。
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