賞与を年4回以上支給すると社会保険上の「報酬」になる
「年4回以上支給される賞与は賞与支払届の対象とはならず、算定基礎届(定時決定)の標準報酬に含めなければならない」という取扱いを目にしたことがある方は多いと思います。支給回数が年3回以下かどうかで、社会保険に係る手続きが大きく変わってきますのでしっかりと理解しておく必要があります。
賞与とは?
社会保険における賞与は「賃金、給料、俸給、手当、賞与その他いかなる名称であるかを問わず、労働者が労働の対償として受けるもののうち、年3回以下の支給のものをいう」と定義されています。つまり、労働の対価かどうかという点と、年3回以下の支給かという点で判断をします。
賞与の対象となるもの | 賞与の対象とならないもの | |
---|---|---|
金銭によるもの | 現物によるもの | |
|
賞与等として自社製品など金銭以外で 支給されるもの(金銭に換算) |
|
「年3回以下の支給」の賞与を支払ったときは?
年3回以下の賞与を支払った場合には、「賞与支払届」を賞与支給日から5日以内に提出します。届出た標準賞与額を基に賞与に対する社会保険料が決定されるとともに、被保険者が将来受給する年金額の計算の基礎となります。賞与支払届を提出しないと、被保険者の加入記録がこの部分について抜け落ち、将来受け取るべき年金額が少なく計算されてしまうことになりますので、年3回以下支給の賞与を支払った場合は、忘れずに賞与支払届を提出することが必要です。
「年4回以上の支給」の賞与を支払ったときは?
年間4回以上支給される賞与は社会保険上は賞与ではなく「報酬」となるため、賞与支払届の提出は不要となります。この場合、毎年7月に行う定時決定(算定基礎届)の手続き時に、月々の報酬月額に加算して標準報酬月額を決定し、社会保険料を算定します。
年4回以上支給の賞与の社会保険処理
年4回以上の対象となる賞与
まずは年3回以下か、年4回以上かの区別、年4回以上支給の対象となる賞与の確認が必要です。
雇用契約書や就業規則、賃金規程に同じ性質の賞与が年4回以上支給されることが定められている場合に報酬月額に含むべき年4回以上の賞与となります。
同じ性質であることが前提ですので、例えばインセンティブ賞与が年2回、夏季・冬季賞与がそれぞれ1回、といった場合や、通常の賞与3回と業績が良かったことによる決算賞与は性質が異なるので年4回以上とはカウントされません。逆に名称が異なっていても性質が同じであれば年4回以上の支給となります。
定時決定(算定基礎届)での反映
年4回以上支給される賞与は賞与から社会保険料を控除するのではなく、月々の給与より控除をします。毎年7月に行う定時決定(算定基礎届)の手続き時に賞与に係る報酬額を月額賃金に加算して月々の保険料に反映します。
7月1日を基準に、前1年間に支払われた年4回以上の賞与の額の合計額を12等分したものが賞与に係る報酬額となります。4~6月の各月の報酬月額に賞与に係る報酬額を加算し標準報酬月額を決定します。
随時改定(月額変更届)への反映も必要
定時決定(算定基礎届)で算定した賞与に係る報酬額はその後の随時改定(月額変更届)でも加算することが必要です。6月月変までは、直前の算定時に対象となった年4回以上賞与の 12分の1 を、変動月以降の3ヶ月間の各月の報酬月額に加算します。7月月変からは前1年に支払われた年4回以上賞与の 12分の1 を加算します。7月月変は算定と同じタイミングで処理されるため、同年の算定時と同額を加算することになります。
定時決定/随時改定での加算の例
対象となる賞与支給
① 2020年7月~2021年6月に支給した年4回以上賞与合計 : 600,000円 |
② 2021年7月~2022年6月に支給した年4回以上賞与合計 : 1,200,000円 |
報酬月額への加算額
ケース 1 2021年の定時決定(算定) : 50,000円を報酬月額に加算( ① 600,000円÷12) |
ケース 2 2021年7月~2022年6月の随時改定(月変) : 50,000円を報酬月額に加算( ① 600,000円÷12) |
ケース 3 2022年の定時決定(算定) : 100,000円を報酬月額に加算( ② 1,200,000円÷12) |
ケース 4 2022年7月~2023年6月の随時改定(月変) : 100,000円を報酬月額に加算( ② 1,200,000円÷12) |
ケース | 加算月 | 1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月 | 11月 | 12月 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
ケース 1・2 2021年算定 2021年7月 ~2022年6月月変 |
2021年 | 50,000円 | |||||||||||
2022年 | 50,000円 | ||||||||||||
ケース 3・4 2022年算定 2022年7月 ~2023年6月月変 |
2022年 | 100,000円 | |||||||||||
2023年 | 100,000円 |
2022年の6月月変では3月、4月、5月の報酬月額には前年の算定時の賞与に係る報酬額50,000円を加算しますが、その翌月の7月月変ではその年の算定時の賞与に係る報酬額100,000円を4月、5月、6月の報酬月額に加算します。6月月変と7月月変では同じ4月、5月に加算する報酬月額が異なります。同じ月の報酬月額であっても、5月・6月月変と算定・7月月変では加算額が異なる可能性があることに注意が必要となります。
年の途中から年4回以上の賞与の支給が開始された場合
新たに年4回以上の賞与の支払いが就業規則や賃金規程等に定められた場合は、次期の定時決定(算定基礎届)までは「賞与」として取り扱い、賞与支払届を提出します。次期の定時決定の際は、賞与に係る報酬額については、それまでの支給実績から新しい規程による支給回数の条件による7月1日前1年間に受けたであろう賞与の額を推計し、その額の 1/12 を標準報酬に含めます。
(例) 2022年 10月 1日から年4回賞与を支給することに決定 賞与支給月は3月、6月、9月、12月
2022年12月 賞与: 200,000円を支給 賞与支払届: 必要(提出) |
2023年3月 賞与: 240,000円を支給 賞与支払届: 必要(提出) |
2023年6月 賞与: 280,000円を支給 賞与支払届: 必要(提出) |
2023年7月 定時決定(算定基礎届)に賞与に係る報酬額を加算 (200,000+240,000+280,000)÷3×4÷12=80,000円 を加算(※1) |
2023年9月 賞与: 320,000円を支給 賞与支払届: 不要(提出しない)(※2) |
(※1) 賞与の合計額を支給回数(3回)で割り、「1回あたりの平均額」を算出。年4回の支給が規程されているため、「1回あたりの平均額」に4を掛け年間支払見込額を算出。その見込額を12等分し、賞与に係る報酬額を算出。
(※2) 定時決定で賞与に係る報酬額を加算後は、基準日7月2日以降に支払われる賞与については賞与支払届の提出は不要。
年4回以上の賞与についての注意点
資格取得時での反映も必要
入社などの資格取得時に、雇用契約書や就業規則により、同じ性質の賞与が年4回以上支給されることが決まっている場合は、1 年間に支給される額の 12 分の 1 を報酬月額に加算し資格取得届を届け出ます。年4回以上の支給は決まっているが、金額が事前に決定しないような賞与であっても支給されると考えられる額を勘案し、加算します。
年4回以上支給されることが、就業規則等で定めれていること
年4回以上の支給があっても、それが就業規則や賃金規程に定められておらず、たまたま4回以上の支給になったという事であれば、それは報酬ではなく賞与となります。臨時で賞与を支払った結果、4回以上となったという場合は4回以上とはカウントされません。ただし、それが翌年以降も続き実態化していった場合は就業規則や賃金規程に定め、報酬として扱う必要が生じてきます。
まとめ
賞与の支給回数によって、社会保険料の手続きが大きく異なるため適切な対応が必要となります。従業員の社会保険料や受取る年金額にも影響が出ますので、誤りがないように注意しましょう。
賞与関連だけではなく、給与に関わる事務は担当者の負担が少なくありません。昨今の人手不足もあり、どうしてもミスが増えてきてしまう業務になります。給与関連事務の負担を軽減したい、ミスを減らしたい等のお悩みを抱えていらっしゃる場合は、給与計算のアウトソーシングをご検討してみてはいかがでしょうか。MASONでは社会保険労務士や経験豊富なスタッフが在籍しており、企業様ごとに細やかに対応できるサービスを提供しています。ぜひお気軽にお問い合わせください。
(参考・出典)
・日本年金機構 │
【事業主の皆様へ】報酬・賞与の区分が明確化されます
・日本年金機構 │
「健康保険法及び厚生年金保険法における賞与に係る報酬の取扱いについて」の一部改正について
・日本年金機構 │
『「健康保険法及び厚生年金保険法における賞与に係る報酬の取扱いについて」の一部改正について』にかかる留意点について