産前産後休業・育児休業時に係る社会保険や雇用保険の手続きは複数あり要件も複雑です。タイミング良く、忘れずに行わなければなりません。今回は産前産後休業・育児休業等が終了した際にどのような手続きがあるのか、詳しく解説します。
産前産後休業・育児休業等が終了した際に行う手続きとは
1産前産後休業・育児休業等終了時改定
<産前産後休業・育児休業等終了時報酬月額変更届>
職場復帰しても産休・育休取得前と同じように働けるとは限りません。時間短縮勤務や所定外労働をしないことで、毎月の給与が産休・育休前と比較して変動する場合があります。この場合には標準報酬月額の改定を申し出ることができます。
2養育期間の従前標準報酬月額のみなし措置
<養育期間標準報酬月額特例申出書>
3歳未満の子を養育する被保険者の厚生年金の標準報酬月額が、時間短縮勤務等で低下しても、将来受け取る年金額が減少しないようにするための特例措置の制度があります。特例措置期間中は実際の標準報酬月額ではなく、低下する前の従前の標準報酬月額により将来の年金が計算されるものです。保険料は低下した後の実際の標準報酬月額に基づいて計算されます。
1産前産後休業・育児休業等終了時改定
「産前産後休業終了時改定」は産前産後休業終了後、育児休業を取らずに職場復帰する被保険者、「育児休業等終了時改定」は満3歳未満の子を養育するための育児休業等(育児休業及び育児休業に準ずる休業)を終了する被保険者で、それぞれ要件を満たす場合に、随時改定に該当していなくても産前産後休業・育児休業等終了時の翌日が属する月以降3ヶ月間に受けた報酬の平均額に基づき、4ヶ月目の標準報酬月額から改定することができるものです。
改定の対象となる人
条件①、②のいずれにも該当した場合に改定の対象となります。
育児休業終了時改定の対象となる人の条件 | |
---|---|
① | 従前の標準報酬月額と改定後の標準報酬月額(※)に1等級以上の差が生じるとき (※)標準報酬月額は、休業終了日の翌日の属する月以後3ヵ月に受けた報酬の平均額に基づき算出します。ただし、支払基礎日数が17日未満の月を除く。 |
② | 休業終了日の翌日の属する月以後3ヵ月のうち、少なくとも1ヵ月における報酬の支払の基礎となる日数が17日以上であること(※) (※)パートタイム労働者において3ヵ月のいずれも17日未満の場合は、そのうち15日以上の17日未満の月の平均によって算定します。特定適用事業所等に勤務する短時間労働者の場合は基礎日数は11日以上です。 |
標準報酬月額の改定方法
休業終了日の翌日の属する月以後3ヵ月間に受けた報酬の総額を3で割った平均額を標準報酬月額等級区分に当てはめます。その結果、現在の標準報酬月額と比べて1等級以上の差がある場合、算出した平均額を標準月額として標準報酬月額を改定します。
報酬の支払基礎日数に17日未満の月がある場合は、その月を除いて計算します。
(改定の対象となる具体例)
育児休業終了日:9月15日
従前の標準報酬月額
健康保険220,000円(18等級)、厚生年金保険220,000円(15等級)
月 | 支払基礎日数 | 基本給 | 合計 |
---|---|---|---|
9月 | 10日 | 102,300円 | 102,300円 |
10月 | 31日 | 204,600円 | 204,600円 |
11月 | 30日 | 204,600円 | 204,600円 |
総計 | 511,500円 |
報酬月額
(204,600円+204,600円) ÷ 2 = 204,600円 (※1)
新しい標準報酬月額
健康保険200,000円(17等級)、厚生年金保険200,000円(14等級)
(※1) 支払日数が17日未満である9月は除いて計算
「産前産後休業・育児休業等終了時改定」と「随時改定」の違い
産前産後休業・ 育児休業等終了時改定 |
随時改定 | |
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基礎期間 | 産前産後休業終了日または育児休業等終了日の翌日が属する月以後の3ヶ月間 | 固定的賃金に変動があった月以後の3ヶ月間 |
支払 基礎日数 |
支払基礎日数が17日未満の月があっても改定を行うことができる(該当月を除く) パートタイム労働者で3ヶ月のいずれも17日未満の場合は、15日以上17日未満の月 |
支払基礎日数が17日未満の月があるときは随時改定を行わない |
等級差 | 2等級以上の差が生じない場合でも改定 | 原則として2等級以上の差が生じることが必要 |
改定月 | 産前産後休業終了日または育児休業等終了日の翌日が属する月から起算して4ヶ月目から改定 | 固定的賃金に変動を生じた月から起算して4ヶ月目から改定 |
届出方法 | 被保険者の申出に基づき、事業主経由で届出 | 随時改定に該当する場合、事業主がすみやかに提出 |
※特定事業所等の短時間労働者である被保険者は「17日」を「11日」と読替えます。
改定月と適用期間
改定された標準報酬月額は、育児休業の終了日の翌日から起算して2ヵ月が経過した日の属する月の翌月(休業等終了日の翌日が属する月から4ヵ月目)から適用されます。1月~6月に改定された場合、随時改定等がない限り、当年の8月までの各月に適用され、7月~12月に改定された場合は、随時改定等がない限り、翌年の8月までの各月に適用されます。
改定の届出
産前産後休業終了時改定は「産前産後休業終了時報酬月額変更届」、育児休業等終了時改定は「育児休業等終了時報酬月額変更届」を提出します。
各届出の提出は被保険者の任意となります。
従業員が育児休業等終了時改定の対象に該当する場合は、従業員に対し提出をするかどうかの意思確認をする必要があります。
2養育期間の従前標準報酬月額のみなし措置
養育期間の従前標準報酬月額のみなし措置とは
子どもが3歳までの間、勤務時間短縮勤務等に伴って標準報酬月額が低下した場合、子どもを養育する前の標準報酬月額に基づく年金額を受け取ることができる措置です。みなし措置の期間は将来受け取る年金額が減少しないように実際の標準報酬月額ではなく、従前の標準報酬月額に基づいて将来の年金額が計算されます。
この措置の申請を忘れてしまうと、低下した標準報酬月額で年金額が計算されてしまいますので、忘れないようにする必要があります。申請をしても毎月の保険料は実際の標準報酬月額に基づいて計算されますので保険料は上がりません。
この特例措置は、厚生年金のみに適用されるため、健康保険の傷病手当金などの現金給付は、標準報酬月額が低下している間、低下した標準報酬月額に基づいて計算されるので、注意が必要です。
育児休業等終了時改定以外の理由でも対象に
3歳未満の子を養育中に標準報酬月額が低下した場合であれば、育児休業等終了時改定以外の理由、また時期においても養育期間の従前標準報酬月額のみなし措置の対象となります。例えば、育児休業終了直後は時間短縮勤務を行わず、育児休業終了時改定に該当せず標準報酬月額は低下しなかったが、その後に時間短縮勤務を行うことになり、随時改定で標準報酬月額が低下した場合もみなし措置の対象となります。残業が減ったことにより定時改定で標準報酬月額が低下した場合なども対象となります。
申請の方法
育児休業終了時改定と同じく被保険者による任意の申請となります。被保険者からの申出を受け事業主は「厚生年金保険 養育期間標準報酬月額特例申出書」を管轄の日本年金機構事務センターへ提出します。
養育特例措置の申請には次の①の書類、状況によっては①~③全ての書類を添付する必要があります。
※書類は提出日から遡って90日以内に発行されたもの、いずれもコピー不可
- ① 戸籍謄(抄)本または戸籍記載事項証明書
申出者と子の身分関係および子の生年月日を証明するために必要です。
申出者が世帯主の場合は、申出者と養育する子の身分関係が確認できる住民票の写しでも代用できます。 - ② 住民票の写し
養育特例の要件に該当した日に申出者と子が同居していることを証明するために必要です。
育児休業終了による申請の場合は、育児休業終了年月日の翌日の属する月の初日以後に発行された住民票が必要になります。
※申出者と子の個人番号をどちらも申出書に記載する場合は添付不要。 - ③ 住民票の除票
出産後に転居した場合に必要となる書類です。最新の住民票では出生時に申出者と子が同居していることが確認できないため、過去の住所が記載されている除票が必要となります。
※②と同様に申出者と子の個人番号をどちらも申出書に記載する場合は添付不要。
まとめ
産前産後休業・育児休業等終了時報酬月額変更届も養育期間標準報酬月額特例申出書も被保険者の任意の申請となります。育児関連の手続きは申出から給付まで様々ありますが、職場復帰後にも細やかにフォローしていくことが必要です。パパ育休の取得が活発化してきたことで、人事担当の負担も増えていくことが見込まれます。
MASONでは、給与計算に加え社会保険関連サービスも提供しています。手続きの漏れや、遅延、書類の不備などがないよう企業担当者様をサポートいたします。ぜひお気軽にご相談ください。
(参考・出典)
・日本年金機構 │ 育児休業等終了時報酬月額変更届の提出
・日本年金機構 │ 養育期間の従前標準報酬月額のみなし措置