年末調整とは?
年末調整とは、給与所得者が1年間に源泉徴収された所得税額を正しく計算し、所得税を確定させる制度です。会社員の場合、毎月の給料やボーナス、賞与などから所得税が差し引かれます。これを源泉徴収といいますが、これはあくまでも目安、概算であり、正しい金額ではありません。そのため、年末調整では当年の1月1日から12月31日までの1年間の給与所得、所得税及び控除額等を確認して改めて計算を行い、正しい所得税を確定し過不足を計算します。計算により源泉徴収済みの所得税に過払いがあれば還付し、不足があれば徴収します。
年末調整の業務は人事労務業務関連の担当者にとって最も重要な業務の一つと言えるでしょう。正しい年末調整の方法をしっかりと押さえる必要があります。2023年の年末調整に関するポイントについて解説します。確認し、今年の年末調整に備えてください。年末調整の概要、手続き等の詳細については以下のバックナンバーを参照ください。
・バックナンバー : 年末調整とは?確定申告との違いや対象になる人、手続きの流れを解説
2023年の年末調整はどう変わる?
2023年の改正には様式変更なども含め大小いくつかありますが、押さえておきたいポイントとしては次の2つがあげられます。
- ポイント1. 非居住者である扶養親族に係る扶養控除の適用要件の変更
- ポイント2. 「扶養控除等(異動)申告書」の「住民税に関する事項」、退職手当等を有する配偶者・扶養親族欄の追加
ポイント1. 非居住者扶養親族の適用範囲変更
2020年の税制改正により、所得税法の扶養控除の対象となる親族についての要件が変更され、2023年から変更となっております。扶養控除の対象となる扶養親族の範囲から、年齢30歳以上70歳未満の非居住者であって次に掲げる者のいずれにも該当しないものは扶養控除の対象外となりました。
- 1) 留学により国内に住所及び居所を有しなくなった者
- 2) 障害者
- 3) 扶養控除の適用を受けようとする人からその年において生活費又は教育費に充てるための支払を38万円以上受けている者
また、1) 留学により国内に住所及び居所を有しなくなった者、と3) 38万円以上の送金を受けている者に該当するものとして扶養控除の適用を受けようとする場合は、証明書類を提出しなければならないこととされました。
扶養親族の要件、必要な証明書類についてまとめると下表の通りとなります。
●非居住者扶養控除の適用範囲
≪改正前≫
非居住者である扶養親族 | 16歳以上 |
---|---|
扶養控除 対象 | 全員対象 |
≪改正後≫
非居住者である扶養親族 | 16歳~29歳 | 30歳~69歳 | 70歳以上 |
---|---|---|---|
扶養控除 対象 | 全員対象 | 1) 留学生 | 全員対象 |
2) 障害者 | |||
3) 38万円以上の送金を 受けている者 |
|||
扶養控除 対象外 | – | 上記以外のものは 扶養控除の対象外者 |
– |
●非居住者である扶養親族の源泉徴収事務における確認書類
≪扶養控除に係る確認書類≫
非居住者である扶養親族の年齢等の区分 | 扶養控除等申告書の 提出時に必要な書類 |
年末調整時に必要な書類 | |
---|---|---|---|
16歳~29歳、又は70歳以上 | 「親族関係書類」 | 「送金関係書類」 | |
30歳~69歳 | ①留学により国内に住所及び 居所を有しなくなった者 |
「親族関係書類」及び 「留学ビザ等書類」 |
「送金関係書類」 |
②障害者 | 「親族関係書類」 | 「送金関係書類」 | |
③扶養控除の適用を受けようと する人からその年において 生活費又は教育費に充てるための 支払を38万円以上受けている者 |
「親族関係書類」 | 「38万円以上の送金関係書類」 | |
(上記①~③以外の者) | (扶養控除の対象外) |
≪扶養控除に係る確認書類≫
適用を受けようとする控除 | 扶養控除等申告書の提出時に必要な書類 | 年末調整時に必要な書類 |
---|---|---|
配偶者控除、配偶者特別控除 | 「親族関係書類」 ※源泉控除対象配偶者に 該当する場合のみ控除可 |
「親族関係書類」及び 「送金関係書類」(※) |
障害者控除 | 「親族関係書類」 | 「送金関係書類」 |
扶養控除等の対象は国内の居住者に限定されていないので、親族が非居住者であっても要件を満たせば扶養控除等の適用を受けることができます。税扶養控除等の適用を受ける国外居住親族の所得要件は、日本国内の源泉所得に基づいて行われるため、国外でいくら所得があっても日本において扶養控除等を受けることができます。
改正前も扶養控除等を受けるための要件として国外居住の扶養親族に対する送金が必要でありましたが、今回の改正で国外居住の30歳以上70歳未満の者を扶養控除等の適用対象者にするためには、留学生・障害者を除くと、年38万円以上の送金が条件として追加されました。改正前はその送金額は明示されておらず、金額問わず送金していれば送金要件はクリアできる状態でありましたが、改正により実質的に扶養していないと扶養控除が受けられないという本来の姿になりました。国外における所得を確認するのは難しいので、それに代わるものとして実際の送金額という条件が設けられたと考えられます。この改正は国外居住の外国人だけではなく、国外居住の日本人にも適用されます。
ポイント2. 退職手当等を有する配偶者・扶養親族欄の追加
2022年の税制改正により、2003年分から、給与所得者の扶養控除等(異動)申告書の「住民税に関する事項」に、「退職手当等を有する配偶者・扶養親族」を記載する欄が追加されました。
所得税と住民税は控除対象となる配偶者や扶養親族の所得の要件が異なり、扶養の範囲となる所得を計算する際、所得税では合計所得金額に退職所得を含む一方で、住民税では退職所得は含みません。これによって退職金を受け取った配偶者や扶養親族がいる場合、所得税は対象外、住民税は対象となるケースが生じる可能性があります。住民税の申告を別途行えば問題ないものの、適用漏れを防止する観点より措置が講じられ、記載する欄が追加されました。2023年からは、源泉控除対象配偶者や扶養親族に退職所得の支給があるかどうか、ある場合はその金額を除いた所得の見積金額がいくらになるのかを確認する必要があります。
●令和5年分 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書 – 住民税に関する事項欄 –
- ①退職手当等(源泉徴収されるものに限る。以下同じ。)の支払を受ける配偶者(生計を一にする配偶者で、2023年中の退職所得を除いた合計所得金額の見積額が133万円以下であるものに限る。)又は扶養親族について記載します。
- ②非居住者である親族
退職手当等の支払を受ける配偶者が非居住者である場合には、「非居住者である親族」欄の「配偶者」にチェックを付けます。また、退職手当等の支払を受ける扶養親族が非居住者であり、その非居住者の年齢が30歳未満又は70歳以上である場合には「非居住者である親族」欄の「30歳未満又は70歳以上」にチェックを付け、30歳以上70歳未満の場合には、「留学」(留学により国内に住所及び居所を有しなくなった人)、「障害者」又は「38万円以上の支払」(2023年中において生活費又は教育費に充てるための支払を38万円以上受ける人)のうち該当するいずれかの項目にチェックを付けます。この場合、親族関係書類、留学ビザ等書類及び送金関係書類を2024年3月15日までに住所所在地の市区町村に提出しなければならない場合があります。 - ③2023年中の所得の見積額(退職所得を除く)
2023年の退職所得の金額を除いた合計所得金額の見積額を記載します。 - ④障害者区分
退職手当等の支払を受ける配偶者のうち同一生計配偶者(生計を一にする配偶者で、2023年中の退職所得を除いた合計所得金額の見積額が48万円以下である人。)又は扶養親族について、その配偶者又は扶養親族が障害者である場合は「一般」にチェックを付け、特別障害者である場合は「特別」にチェックを付けます。 - ⑤寡婦又はひとり親
退職所得を除くと2023年中の合計所得金額の見積額が48万円以下となる扶養親族を有することにより、寡婦又はひとり親に該当する場合にチェックを付けます。
まとめ
早期準備で万全な対応を
2023年の年末調整、前年からの変更ポイントについて解説しました。理解を深めていただき、万全の体制で今年の年末調整を乗り切っていただければ幸いです。
近年、年末調整に関わる法改正は頻繁に行われています。制度の変更を見逃さず、常に早めの情報収集が行う必要があり、人事労務業務関連の担当者の方の負担も増えていきます。負担を減らし、年末調整の生産性の向上を図るために給与計算アウトソーシングを利用してみてはいかがでしょうか。
MASONでは社会保険労務士や豊富な実務経験を持つスタッフが常に最新の知識にて対応し、高品質なサービスを提供しています。ヘルプデスク対応などきめ細かなサービスと迅速かつ柔軟な対応で業務効率化をサポートします。給与計算、年末調整のアウトソーシングに関してのご相談がありましたら、お気軽にお問合せください。
(参考・出典)
・国税庁 │ 令和5年版 源泉徴収のしかた
・国税庁 │ 令和5年1月以後に非居住者である親族について扶養控除等の適用を受ける方へ
・国税庁 │ 令和5年1月からの国外居住親族に係る扶養控除等Q & A(源泉所得税関係)
・国税庁 │ 各種申告書・記載例(扶養控除等申告書など)